火曜日, 4月 29, 2008

ファッションと街

口腔癌の治療で3年休職した後仕事復帰し、以前よりも「遠い職場」へと配置換えになりました。その遠い職場というのは、実は入社当時の職場と同じ場所で、当時はその近くに住んでいたのです。
で、久しぶりに色々歩いてみたら、当時行っていたお店を思い出しました。

お給料をもらって、買い物を覚えた頃、見つけた洋服屋さんです。それが、変わったお店だったんです。

おじさんが店長さんでしたが、店長、と呼ぶと怒っていました。社長、と呼ばねばならないのです。マネキンが着ている服に触ると怒られました。「触らないで下さい」と張り紙がしてありました。

触られると汚れる、誇りを持って売っているのに悔しいでしょう、オレは許さないよ、と言っていました。

触らせてもくれないだけでなく、服は客には選ばせてくれません。服を見ていると、その社長が、服を選んで持ってきてくれるのです。こちらの意見は聞いてくれて、その上で選んでくれます。

服の値段は高かったです。でも、納得するかっこよさの、よそにはない服でした。専門家の目の値打ちを感じました。センスのかけらも無かった私は、う~ん、凄い、と思いつつ、社長に選んでもらった服を買いました。

会社に来て行くと、見る人には分かったみたいです。どこで服を買ってるの?とか、聞かれることがありました。米国に赴任した時にもそこのお店で買ったスーツなどを持って行きましたが、赴任先の研究所の女性上司にスーツを褒められました。『決めねばならない』と思う時の戦闘服のようなもので、大舞台の学会発表にも来て行きました。

だから社長に選んでもらう服はすごく役に立ったのですが、でも、すごく、高いんです。何度かは買いに行って、一度も外れたことはなくどの服も気に入ったけれど、社長とずっと仲良くつきあうことはできませんでした。米国の田舎町に赴任して、赤ん坊が生まれて、新しい高い服を買うこともなくなりました。

当時の事を思い出して今日、行ってみたのですが、社長のお店はなくなっていました。もう、十数年も前ですから。
無いんだ、、、と思いつつ、同じビルの中の沢山の洋服屋さんを、いつもよりも念入りに見ている自分がいました。
今住んでいる街にもデパートがあり、服屋さんがありますが、社長のお店で買った服に匹敵するようなものにめぐり合えたことはありません。社長のは服が自分をシャンとさせてくれて、内面的にも自分に無いものを補ってくれて、新しい世界に連れて行ってくれるような感じでした。多分、社長に言わせれば、何十万もするスーツと同じ値打ちのものを、自前でデザインしているから安くで売っている、という感じでした。

今日、社長のお店は無くなっていたけど、何だかその周辺のお店も、うちの近所のお店よりずっとセンスがいいような、気がしたんです。気のせいかなぁ、と思ったけど、やっぱり、都会(都内です)と、田舎(横浜のはじっこ)は、ビルの中に入っているお店のセンスのレベルが違うのかもしれないと思いました。

それで、歩いているうちに、見つけちゃったんですよ。ビ~ン、と来る、ブラウス。いいデザイン。うちの近所で、何度も何度も探しても、いいブラウスは見つからないんです。社長の所でも何枚かブラウスを買ったっけ。この街にはあるんだ、、と思って、値段をみると、ウン万円。。。

買おうか、どうしようか。  突っ立って見ているうちに、気後れしていいブラウスを着ることができない自分に気がつきました。服に負けてしまう。しなやかなデザインなのに。考えて見れば、後遺症で食べる時にボロボロこぼすので、服の前はすぐにシミだらけになるのです。子供が生まれた頃は子供のよだれが着くからいいブラウスが着れなかったけど、今は自分の食べこぼしで、着られないや。社長のところで買った既に持っているブラウスも着られない。もったいなくて。

あの頃の私は何になろうとしていたんだろう。社長はセンスにお金を払う値打ちがあることを教えてくれました。結婚前にできた、いい勉強でした。何かを経て来たとして、今は、何になろうとしているんだろう。

「ウーフはウーフでできている」先日息子に読んでやった『くまの子ウーフ』の一節。

今は、今なりのおしゃれをしなくちゃ。へこんだほっぺたに触ることもできない時期もありましたが、最近はファンデーションも毎日つけるようになりました。今度、久しぶりのボーナスをもらったら、何を買おうかな。

3 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

高くてもお金だけじゃない価値も一緒に買えた良いお買い物だと思います。
そんなスーツが買えたことがむしろ羨ましく思えますよ!
確かにわぁいい服!って一目惚れしても、値段を見て気後れしてしまうことってありますよね…。
良い服があって、着こなせる自分もいないとだからそんな出会いは一生モノかもしれませんね。
お気に入りのお店がなくなっているとショックなものです。

匿名 さんのコメント...

このタイトル、新鮮でした。しかもちゃーんとゴルぴょんらしい視点で書かれてる。
ファッションは虚飾でも流行でもなく、自分確立の要素でもあり、なかなか奥深いね。

社長の店、見てみたかったよ!

オルゴールぴょん さんのコメント...

間宮さん、こんばんは。あれは忘れられない出会いでした。授業料に見合う勉強させてもらったと思います。

またあんなお店をみつけたい、と思ってても、またそれなりの授業料(買い物代金)を払わなきゃならないところが、苦しいよ。買ってみなきゃ分かんないんです。

奈津子さん、こんばんは。
社長のお店は、当時は、ぱっと見に全然派手ではなく、触らないで下さいの紙がくっついてるくらいで、ディスプレイは凝ってなかったです。でも、靴も、ベルトも、よそにないものがあったよ。
で、値段で服を選ぶ年配のお客を毛嫌いしてました。でも私も、社長のお客の中では値段に縛られてた方なのね。毎年毎年何十万分も買ってる固定客も沢山いて、買わせていいことをしてやってる自信が社長にはあったみたい。まずサラリーマンを辞めないとあの世界には入れなかったけどね。

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