日曜日, 3月 23, 2008

獅子身中の虫とは(プーシリーズEpisodeI「アマツカゼ~天つ風~」)

観てきました、プーシリーズEpisodeI「アマツカゼ~天つ風~」。すぐそこに大ちゃんが、カーテンコールは3回も出てきてくれました。思い出すと勝手にぐふゅふゅふゅ、と顔がほころんでしまいます。以下はネタバレ+全然一般的でなさそうな感想ですので、これからご観劇の方などはパスなさって下さい。












大丈夫ですか? 


私の感想、他の方には通じなさそうに思うんです。それでもいい、という方だけ、読んでくださいね。

まずは、大野くんだけでなく、回りの俳優さん達も良かったです。舞台って、そこに居るだけで存在感のある俳優さんが、場を決めてくれて、その姿を見る醍醐味がテレビなどとは違うと思うのですが、準主役級の佐藤アツヒロさん、決まってました。力のある俳優さんだと思いました。

それから、女性相手役の松本まりかさん、可愛さだけではなく、動くと殺陣も素晴らしい切れ味で、凪(大野くん演じる主人公)を思う抑えた気持ち・激しい気持ちを存分に表現していました。演技が光る俳優さんだと思いました。松本さんの相手役の武田義晴さんも、いい味をだしていました。独特の大らかな存在感があると思いました。

それでね、大野くんの感想は、難しいんです。帰りの電車の中で、漸く一応考えがまとまったのです。

最後に、意外なモノに会っちゃったんです。こんな所で会うなんて。『癌』が出てきたんです。

戦乱の続く戦国時代で、大野くん演じる凪は、佐藤アツヒロさん演じる山城不動に両親や妹を奪われて、復讐のために不動に仕えます。様々な犠牲者を出しながら自分よりも強い不動を倒そうと幾度も試みますが力及ばず、しかし、その度に凪は強くなっていきます。不動は占い師から、身中の虫によって殺される、と予言され、凪は自分が獅子身中の虫だと思うわけです。自分が不動を倒す、と。

ところが、二幕の最後の最後で、不動は実は凪を強くして自分の跡継ぎにしようとしていた、不動は実は『かくの病』という、体が腐る病に侵されていた、不動の「獅子身中の虫」は、不動自身の体の中のものだった、と明かされるのです。『かくの病』は、帰りに携帯で調べたら、『腹部の癌』を昔の日本でそう呼んだそうです。凪は、不動を倒すために自分が何人もの犠牲者を生んできたのに、その不動が不治の病だったと告げられ、刀を捨て、『風』になって自由に生きる決心をするのです。『プー』は『風』。今回はエピソードIで、これまでの3回に続く第4弾でこれまでのプーシリーズの原点を示したそうです。

倒そうと思った相手が実は癌だった、倒そうとしてきた努力が無意味だと思って考えをガラリと変えた、という構図は、ニノの『青の炎』と一緒です。あの時は主人公の青年は『無意味な殺人者』として生きるよりも死を選んでしまいましたが、戦国時代の凪は刀で闘わない生き方を選びました。

殺したいほどの相手でも、癌だったら殺す値打ちがなくなっちゃうんですかね。殺すはもちろんいけないんですが、象徴的な意味で、倒すほどの相手じゃないということになっちゃう、らしいですね。う~ん、元癌患者としては、何だかくやしい。

戦国時代にも癌になる人はあったわけで、癌と自覚できるのは外から癌が見える状態になってからだったろうから、戦国時代ならば治る見込みは一般に無かったのかもしれません。今だと、乳癌で、癌が外から見えてたという方で10年以上たって今とてもお元気な方を知っています。背骨にでっかい金属が入って支えてあるのですがスタスタ元気に歩いています。今も癌で死ぬ人はもちろん多いのだけれど、治る人も多い。かどうか知っているわけじゃないけど、治る方もいらっしゃるのです。

癌でなくたって、糖尿病だって肝臓病だって、死ぬ人はあるのだし、青の炎でも今回でも、倒される方は主人公の親など年上の世代で、何もしなくても大抵は先に死ぬということは同じです。

だから、何であれ、どうせ先に死ぬはずの年上世代を倒すために無益な犠牲者を出すことは空しい、無益な戦いはやめよう、というのが本来の(?)ストーリー、であって欲しいです。ふぅ、こんな事考えてるからなかなか感想がまとまらないわけです。

今回の舞台では(『青の炎』でも)最後にこの『癌ちゃん』の特別出演があって、観客はそれまでのストーリーの意味を全部書き換えなければならないのです。冷酷非情だと思った山城不動(青の炎では義理の父)は、実は凪を強い男に育てた暖かい人(死ぬ前に娘に会いたくてやってきた寂しく優しい男)だった、と分かるのです。

おおちゃんの舞台でまず期待の大きかったのは殺陣ですが、今回は神業的な息をもつかせぬ鋭い殺陣は2幕の最後の最後にあったけれど、1幕では実は、「何だか切れ味ゆるいな、調子が悪いのかな」と思ったのです。後から考えると、強くなる前の成長段階だったから、ゆるく演じていたのでしょう。で、復讐しようと状況に耐えながら不動に仕えているので、凪はいつも、悩んでいる風なのです。セリフが少ない。殺陣がゆるくてセリフが少なくて、衣装も黒っぽいし、地味なんです。で、『内に秘めた熱いもの』を演じようとしていたらしい。

それが、実は病の不動に鍛えられている過程だったという、多重構造になっていることが、後で分かるのです。ちょっと話の筋をたどりにくくて、ただ観ていても分からない。むしろ真っすぐな思いで凪を助けようとしている松本まりかさんの陽炎とそれを愚直においかける武田義晴さんのサイドストーリーが、分かり易くて心を打ちました。プーシリーズの今までの3本の原点を示すという位置づけから、説明っぽい内容になったのかもしれません。脚本のきだつよしさんも、凪の生き方を変えさせる肝の役柄で自ら出演しているのですが、こだわりがあったのでしょうね。

もう一回、観たいなぁ。

殺陣がかっこいいだけじゃない、もう一層上の理解を必要とする舞台でした。この作品をステップにして大野くんは演技の深みを広げてくれることと思います。


      プーシリーズ第3弾(前回)「テンセイクンプー~転生薫風」のDVD 3/26発売するそうです。
      

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